
こんにちは
臨床心理士・公認心理師のふくろうです。
「個性」と言われても、やはり気になってしまう
健診や周囲の人から「個性だから大丈夫」と言われても、心のどこかでモヤモヤが残る。そんな経験をされた方は少なくないかもしれません。
ことばの遅れは個性なのか、それとも何か支援が必要なサインなのか。この境界線は、実はとても曖昧で、専門家でも慎重に見極める必要があるものです。ましてや、毎日一緒にいる親が一人で判断しようとすれば、不安になるのは当然のことです。
ここでお伝えしたいのは、明確な答えではありません。むしろ、どんなときに「これは様子を見ていいかもしれない」と感じられ、どんなときに「少し専門家の目を借りたほうがいいかもしれない」と思えるのか。その感覚を少しでも持ちやすくなるための手がかりについてです。
臨床心理士として、多くの親の迷いに寄り添ってきた経験から、心配なときの見分け方について考えてみたいと思います。
「個性」として見守れる範囲とは
子どもの育ちには、本当に一人ひとり違うペースがあります。言葉についても、早く話し始める子もいれば、ゆっくりと時間をかけて話し始める子もいます。これ自体は自然なことです。
では、どんな場合に「個性の範囲」として見守っていける可能性があるのでしょうか。
一つの目安は、言葉以外のコミュニケーションが育っているかどうかです。言葉は出ていなくても、視線や表情、身振りで自分の気持ちを伝えようとしている。親が話しかけると嬉しそうに反応する。絵本を一緒に見ながら、指さしたり笑ったりする。こうしたやりとりが日常の中にあるのであれば、コミュニケーションの土台そのものは育っていると考えられます。
また、周囲の言葉を理解している様子があるかどうかも大切です。「ごはんだよ」と言うと食卓に向かう、「おいで」と呼ぶと近づいてくる、簡単な指示に応じられる。こうした理解があれば、言葉という形で出てくるのは時間の問題かもしれません。
さらに、興味や関心が広がっているかどうかも見ていきたいポイントです。好きな遊びがある、新しいものに興味を示す、外の世界に目を向ける。そんな様子があれば、子どもなりに世界と関わろうとする意欲が育っているということです。
こうした姿が見られるのであれば、言葉の現れ方がゆっくりであっても、その子のペースを尊重しながら見守っていける範囲である可能性があります。
少し気にかけておきたいサイン
一方で、少し注意深く見ておいたほうがよい場合もあります。それは「何かが間違っている」ということではなく、早めに専門家の目を借りることで、子どもも親も楽になる可能性があるということです。
たとえば、言葉だけでなく、人との関わり全体が少ない場合です。名前を呼んでも振り向かない、一緒に遊ぼうとしても関心を示さない、笑いかけても反応が乏しい。こうした様子が続いているときには、関わり方そのものに何か工夫が必要な可能性があります。
また、周囲の言葉をあまり理解していないように見える場合も、少し確認が必要です。簡単な指示が通らない、いつも同じ行動パターンを繰り返している、状況の変化に気づきにくい。こうした様子があると、言葉を受け取る力そのものがゆっくりと育っている可能性があります。
興味の幅が極端に狭かったり、特定のものや行動に強くこだわる様子が目立つ場合も、子どもが今どんなふうに世界を感じ取っているのかを理解する手がかりになることがあります。
さらに、音への反応が乏しかったり、呼びかけに気づかないことが多い場合には、聞こえ方そのものを確認してみる必要があるかもしれません。
こうしたサインは、一つだけで判断できるものではありません。いくつかが重なっていたり、日常生活の中で何度も繰り返し見られるときに、専門家に相談してみることを考える目安になります。
発達全体のバランスを見てみる
言葉だけを切り取って判断しようとすると、どうしても見えにくくなることがあります。大切なのは、発達全体のバランスを見ることです。
体の動きはどうでしょうか。走ったり跳んだり、階段を上ったり、年齢相応の動きができているでしょうか。手先を使った遊びは楽しめているでしょうか。
生活習慣はどうでしょうか。食事や着替え、トイレといった場面で、少しずつできることが増えているでしょうか。
遊びの様子はどうでしょうか。おもちゃを使って何かを見立てたり、簡単なごっこ遊びを楽しんだりしているでしょうか。
こうした全体像を見たときに、言葉だけが特別にゆっくりなのか、それとも全体的にゆっくりとしたペースで育っているのか。あるいは、ある部分は早くて別の部分がゆっくりなのか。そのバランスを感じ取ることが、見分けるための手がかりになることがあります。
言葉以外の発達がおおむね年齢相応に進んでいて、本人も楽しく過ごせているのであれば、言葉については少し時間をかけて見守っていける可能性が高いでしょう。
親の直感も大切な情報
見分け方を考えるとき、忘れてはいけないのが親自身の感覚です。
「なんとなく気になる」「他の子と違う感じがする」「以前はできていたことができなくなった」。こうした直感的な違和感は、データや基準には表れない大切な情報です。
毎日一緒にいるからこそ気づける小さな変化や、言葉にしにくい違和感。それは決して気のせいではなく、子どもをよく見ているからこそ感じ取れるものです。
一方で、不安が大きくなりすぎて、すべてが問題に見えてしまうこともあります。ささいなことまで気になって、子どもの姿をありのままに見られなくなる。そんなときもあるかもしれません。
だからこそ、一人で抱え込まず、誰かに話を聞いてもらうことが助けになる場合があります。保健師や保育士、あるいは専門機関。話をするだけで整理されることもありますし、客観的な視点が加わることで安心できることもあります。
「様子を見る」と「放置する」は違う
「個性だから様子を見ましょう」と言われたとき、それを「何もしなくていい」という意味に受け取ってしまうことがあります。けれど、様子を見るということは、放置することではありません。
様子を見るというのは、子どもの変化を丁寧に観察しながら、関わり方を工夫していくことです。言葉を無理に引き出そうとするのではなく、日常の中で言葉に触れる機会を大切にする。遊びを通じて人との関わりを楽しむ経験を増やす。そうした関わりを続けながら、成長を見守っていくということです。
そして、数ヶ月月後にもう一度振り返ってみる。少しでも変化が見られたなら、それはその子なりのペースで育っている証拠です。もし変化が乏しかったり、かえって気になることが増えたりしたなら、そのときには専門家の力を借りることを考えてみる。
こうした柔軟な姿勢が、見分けるための大切な態度である可能性があります。
心配なときは、早めに相談してもいい
「もう少し様子を見てから」と思っているうちに、時間だけが過ぎてしまうこともあります。特に、不安を抱えたまま一人で悩み続けることは、親自身の心を疲れさせてしまう場合があります。
専門家に相談することは、決して大げさなことではありません。相談したからといって、必ず何か診断がつくわけでも、特別な支援が始まるわけでもありません。多くの場合、話を聞いてもらい、今の子どもの姿を一緒に確認し、安心材料を見つけたり、具体的な関わり方のヒントをもらったりするだけで、気持ちが楽になることもあります。
そして、もし何か支援が必要な状態だったとしても、早めに気づいて関わり方を工夫することで、子どもの育ちをより豊かにサポートできる可能性があります。
相談することは、弱さではなく、子どもと自分自身を大切にする選択です。
白黒つけなくてもいい
ことばの遅れが個性なのか、支援が必要なサインなのか。この問いに、はっきりとした答えを出そうとすると、かえって苦しくなることがあります。
なぜなら、発達というのはグラデーションのようなもので、明確な境界線があるわけではないからです。今は個性の範囲に見えても、数ヶ月後には少し支援があったほうがいいと感じることもあるでしょう。逆に、心配していたことが時間とともに自然と解消されることもあります。
大切なのは、今この瞬間に完璧な判断を下すことではなく、子どもの姿を丁寧に見つめ続けること。そして、必要なときには柔軟に動けるように、心の準備をしておくことです。
不安を感じているあなたは、それだけ子どものことを真剣に考えている証拠です。その気持ちを大切にしながら、一人で背負い込まず、周囲の力も借りながら、少しずつ歩んでいけたらと思います。子どもの育ちには、まだまだこれからの時間があります。焦らず、でも見守りながら、その子に合った道を一緒に探していけたらいいですね。

ここまで読んでくれてありがとう。
※この記事は、公認心理師・臨床心理士の「ふくろう」が、心理支援の現場経験をもとに執筆しています。
一般的な心理学的知見に基づいた情報提供を目的としており、特定の診断や治療を行うものではありません。子どもの状態や状況には個人差があります。心配なことがある場合は、医療機関や専門機関への相談をご検討ください。
