
こんにちは
臨床心理士・公認心理師のふくろうです。
夜中にふと襲ってくる不安
子どもが寝静まった後、ふと「うちの子、話さない」という思いが頭をよぎる。昼間は忙しさに紛れていても、静かな夜になると不安が大きくなってしまう。そんな夜を過ごしている方もいるかもしれません。
周りの子が「ママ」「パパ」「ブーブー」と次々に言葉を発するようになっているのに、子どもからはまだ意味のある言葉が聞こえてこない。検診では「様子を見ましょう」と言われたけれど、本当にこのままでいいのだろうか。自分の関わり方が悪いのではないか。そんな思いがぐるぐると巡ることもあるでしょう。
この記事は、そんな不安を抱えているあなたに向けて書いています。答えを押しつけるためではなく、少しでも気持ちが軽くなるきっかけになればと思いながら、臨床心理士としてお伝えできることを綴っていきます。
不安になるのは、当たり前のこと
まず最初にお伝えしたいのは、不安になることは決しておかしなことではないということです。
子どもが話さないとき、親が心配するのは自然な反応です。言葉は成長の大切な目印の一つですし、コミュニケーションの手段でもあります。それが見えないとき、この先どうなるのだろうと不安になるのは、親として当然の感情です。
しかも、周囲の何気ない言葉が胸に刺さることもあります。「もう話してる?」「うちの子はもう二語文なのよ」。悪気のない会話が、知らず知らずのうちに比較を生み、焦りを募らせることもあるでしょう。
そして、ネットで調べれば調べるほど、不安な情報ばかりが目に入ってくる。そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。
こうした不安を抱えている自分を責める必要はありません。あなたは子どものことを真剣に考えているからこそ、不安を感じているのです。
話さないことの意味は、一つではない
「話さない」という現象の背景には、本当にさまざまな理由があります。そして、そのほとんどは、時間が解決してくれるものだったり、少しの工夫で変わっていくものだったりする場合が多いとされています。
ある子は、十分に理解してから話し始めるタイプかもしれません。周りの言葉をじっくりと聞いて、自分の中に蓄えて、準備が整ったときに一気に話し始める。そんな子どももいます。
ある子は、口や舌の動きを調整することに時間がかかっているのかもしれません。頭の中では言いたいことがあっても、それを音にするまでに少しだけ準備が必要な状態です。
またある子は、言葉以外の方法で十分に伝えられているから、あえて言葉を使う必要性を感じていない可能性があります。親が先回りしてすべてを察してくれる環境にいると、そうなることもあります。
環境の変化や心の負担が一時的に言葉の発達に影響を与えることもありますし、生まれ持った気質として、慎重に様子を見てから行動するタイプの子もいます。
どの理由も、その子が「ダメ」だということではありません。ただ、今その子なりのペースで育っているということです。
話さなくても、伝えようとしているか
不安なとき、一つ見ていただきたいのは、子どもが何らかの形で伝えようとしているかどうかです。
言葉がなくても、視線で「あれが欲しい」と訴えているでしょうか。指さしをして何かを教えようとしているでしょうか。親の顔を見て、笑ったり困った表情を見せたりしているでしょうか。
泣いて何かを訴える、手を引っ張って連れて行こうとする、欲しいものに手を伸ばす。こうした行動も、立派なコミュニケーションです。
もしこうした「伝えたい」という気持ちが見られるなら、それはコミュニケーションの土台がしっかりと育っている証拠である可能性があります。言葉という形になるのは、もう少し時間がかかるかもしれませんが、その芽は確実に育っています。
逆に、伝えようとする様子があまり見られない場合には、言葉そのものよりも、人と関わる楽しさや伝える喜びを感じられる経験を増やしていくことが大切になるかもしれません。
理解しているかどうかも見てみる
話さなくても、周りの言葉を理解しているかどうかは、とても重要な手がかりになる場合があります。
「ごはんだよ」と言うと食卓に向かう、「おいで」と呼ぶと近づいてくる、「ちょうだい」と言うと持っているものを渡してくれる。こうした様子があれば、言葉を受け取る力は育っているということです。
言葉の発達には、「理解する力」と「話す力」の二つがあります。多くの場合、理解する力のほうが先に育つとされています。話せなくても理解できているのであれば、子どもの中には言葉がしっかりと蓄えられていて、話し始めるタイミングを待っている状態なのかもしれません。
一方で、理解も乏しいように見える場合には、言葉そのものだけでなく、全体的な発達のペースや関わり方を見直してみることが役立つ可能性があります。ただ、それも「問題がある」ということではなく、子どもに合った関わり方を見つけるための手がかりです。
自分を責めないでほしい
「うちの子が話さないのは、私の関わり方が悪いからではないか」。そんなふうに自分を責めてしまう方がいます。
けれど、子どもが話さないことは、親の責任ではありません。
もちろん、関わり方が言葉の育ちに影響を与えることはあります。たくさん話しかけたり、一緒に絵本を見たり、遊びの中で言葉に触れる機会を作ることは、言葉を育む土壌になります。
でも、それは「話しかけが足りなかったからダメ」ということではありません。忙しい日々の中で、できる範囲で関わってきたあなたを、責める必要はないのです。
むしろ、今不安を感じながらも、何かできることはないかと考えているその姿勢こそが、子どもにとって一番大切なものです。完璧な親である必要はありません。今のあなたのままで、十分なのです。
今からできる小さなこと
不安なとき、何か具体的にできることがあると、少し気持ちが楽になることがあります。
一つは、日常の中で言葉に触れる機会を自然に増やすことです。無理に話させようとするのではなく、散歩で見たものを穏やかに言葉にしてみる、食事のときに「おいしいね」と声をかけてみる、絵本を一緒に見ながらゆっくりと読んでみる。そんな小さな積み重ねが、言葉の種を蒔くことになります。
もう一つは、子どもが今使っているコミュニケーションの方法を、しっかりと受け止めることです。言葉がなくても、表情や仕草で伝えてくれることがあるはずです。それを「わかったよ」と言葉にして返してあげる。そのやりとりが、言葉の土台を育てることになります。
そして、子どもが何かに興味を示したときに、一緒にその時間を楽しむことも大切です。好きな遊びに夢中になっているとき、そこに寄り添ってあげる。そんな安心できる時間が、やがて「伝えたい」という気持ちを育てていくことになります。
どれも特別なことではありません。でも、こうした関わりの積み重ねが、少しずつ言葉を育む力になっていくことがあるのです。
一人で抱え込まないで
不安を一人で抱え込むことは、とても苦しいことです。
もし誰かに話を聞いてもらえる相手がいるなら、ぜひ話してみてください。パートナーでも、親でも、友人でも。話すだけで、少し気持ちが整理されることもあります。
また、保健センターや子育て支援の窓口に相談してみるのも一つの方法です。専門家の目から見た子どもの様子を教えてもらったり、具体的な関わり方のヒントをもらったりするだけで、安心できることもあります。
相談することは、決して弱さではありません。子どもと自分自身を大切にするための、勇気ある行動です。
そして、もし専門的な支援が必要だとわかったとしても、それは決して悪いことではありません。早めに気づいて適切な関わりができることで、子どもの育ちをより豊かにサポートできる可能性があるのですから。
この不安も、いつか思い出になる
今は不安で仕方がないかもしれません。「話さない」という現実が、大きな壁のように感じられるかもしれません。
でも、子どもの成長は止まりません。今この瞬間も、その子なりのペースで、確実に育ち続けています。
いつか振り返ったとき、「あのときは本当に心配したな」と思える日が来るかもしれません。そして、そのときには、あの不安があったからこそ子どもをしっかりと見つめることができた、と感じられるかもしれません。
不安を感じているあなたは、それだけ子どものことを大切に思っている証拠です。その気持ちを大事にしながら、でも一人で背負い込みすぎず、できる範囲で今を過ごしていけたらと思います。
言葉が出る日は、必ず来ます。その日まで、焦らず、でも見守りながら、子どもと一緒に歩んでいけますように。あなたと子どもの時間が、少しでも穏やかなものになることを願っています。

ここまで読んでくれてありがとう。
※この記事は、公認心理師・臨床心理士の「ふくろう」が、心理支援の現場経験をもとに執筆しています。
一般的な心理学的知見に基づいた情報提供を目的としており、特定の診断や治療を行うものではありません。子どもの状態や状況には個人差があります。心配なことがある場合は、医療機関や専門機関への相談をご検討ください。
