はじめに
子どもの癇癪がひどいと感じるとき、多くの親の方は「なぜこんなに怒るのだろう」「私の育て方が悪いのだろうか」と自分を責めてしまうかもしれません。特に公共の場や忙しい時間帯に激しく泣き叫ばれると、周囲の視線も気になり、心が折れそうになることもあるでしょう。
けれども、子どもの癇癪には必ず理由があります。それは単なるわがままではなく、子どもなりの精いっぱいの表現であることが多いのです。この記事では、心理の視点から、癇癪がひどい子の心の中で何が起きているのかを一緒に考えていきたいと思います。

こんにちは
公認心理師・臨床心理士のふくろうです。
癇癪は「言葉にならない気持ち」のあふれ出し
子どもが激しく泣いたり、物を投げたり、床に寝転がって抵抗したりする姿を見ると、親はつい「コントロールできていない」と感じてしまいます。しかし子どもの側から見れば、癇癪はむしろ「どうしても伝えたいのに、伝え方がわからない」状態の表れです。
親は長年の経験を通じて、不快な感情を言葉で説明したり、少し我慢したり、別の方法で発散したりする術を身につけています。けれども子どもはまだその力が十分に育っていません。怒り、悲しみ、不安、疲れ、寂しさといった感情が一度に押し寄せてきたとき、それを整理して表現する力が追いつかず、結果として身体全体で感情を表すしかなくなるのです。
つまり癇癪は、言葉を持たない感情の叫びであり、子どもが今まさに「助けて」「わかって」と訴えているサインとも言えます。
怒りの裏には必ず「困りごと」がある
癇癪の背景には、大きく分けていくつかの心理的な要因が隠れていることが一般的です。
ひとつは、「自分の思い通りにならない現実」への戸惑いです。発達の過程で、子どもは自分と世界の境界を少しずつ学んでいきます。その中で「こうしたい」という欲求と「そうはいかない」という現実のズレに直面すると、強い不全感を覚えます。この不全感が、癇癪として表に出ることがあります。
また、「安心できる環境が揺らいでいる」ことも大きな要因です。日常のリズムが崩れていたり、周囲の親が忙しくて余裕がなかったり、引っ越しや入園といった変化があったりすると、子どもは無意識のうちに不安を感じます。その不安が癇癪という形で表れることは珍しくありません。
さらに、「感覚の過敏さ」や「疲れの蓄積」といった身体的な要因も見逃せません。音や光、触覚への敏感さを持つ子どもは、親が気づかないうちに日々多くの刺激にさらされています。そのストレスが限界を超えたとき、癇癪として爆発することがあります。
どのケースにも共通しているのは、子どもが「何かに困っている」という事実です。癇癪は問題行動ではなく、困りごとのサインなのです。
「怒り」の奥にある本当の感情
癇癪を起こしている子どもの表情は、確かに怒っているように見えます。けれども心理学的に見ると、怒りはしばしば二次的な感情であり、その奥には別の感情が隠れていることがあります。
たとえば、本当は「寂しい」「怖い」「悲しい」と感じているのに、それをうまく言葉にできず、結果として怒りという形で表現されることがあります。親が忙しくて構ってもらえない寂しさ、新しい環境への不安、失敗したときの悲しさ――これらが「怒り」という感情に変換されて外に出てくるのです。
また、「自分でできるようになりたい」という成長の欲求が満たされないときにも、癇癪は起こりやすくなります。親が先回りして手を貸してしまったり、逆に難しすぎる課題を求められたりすると、子どもは無力感や挫折感を抱き、それが怒りとして噴き出すことがあります。
このように、癇癪の背後には複雑で繊細な心の動きがあります。表面的な行動だけを見て「困った子」と判断するのではなく、その奥にある感情に目を向けることが、理解への第一歩となります。

子どもの感情に目を向けることが大切です。

親の関わり方は子どもの癇癪に影響しますか?
親の関わり方が癇癪に与える影響
ここで少し触れておきたいのは、親自身の状態が子どもの癇癪に影響を与えることもあるという点です。これは決して「親が悪い」という話ではありません。むしろ、親子は互いに影響し合う関係にあるという、ごく自然な事実です。
親が疲れていたり、不安を抱えていたりすると、子どもはそれを敏感に感じ取ります。言葉で説明されなくても、表情や声のトーン、身体の緊張から、親の状態を読み取る力を子どもは持っています。そして、親の余裕のなさを感じたとき、子どもは安心感を失い、癇癪が増えることがあります。
また、癇癪に対して厳しく叱ったり、無視したりすることで一時的に収まったように見えても、子どもの中では「自分の気持ちは受け止めてもらえない」という思いが積み重なっていきます。その結果、より激しい形で感情が表出されることもあります。
逆に、子どもの感情を丁寧に受け止め、言葉にして返してあげることで、癇癪の頻度や強度が少しずつ変化していくこともあります。「今、すごく悔しかったんだね」「疲れちゃったのかな」と、子どもの気持ちに名前をつけてあげることは、感情を整理する手助けになります。

どうしたらいいですか?
日常の中でできる小さな工夫
癇癪がひどいと感じるとき、何か特別な対応をしなければならないと考えがちですが、実は日常の小さな関わりの積み重ねが大きな意味を持ちます。
たとえば、一日の中で「子どもと向き合う時間」を意識的に持つことです。たとえ短い時間でも、スマートフォンを置いて、目を合わせて話を聞く時間があると、子どもは安心感を得やすくなります。
また、癇癪が起きる前の「サイン」に気づくことも有効です。声が大きくなる、動きが荒くなる、表情が硬くなるといった変化に早めに気づき、環境を調整したり、気持ちを言葉にして確認したりすることで、癇癪を未然に防げることもあります。
さらに、生活リズムを整えることも見逃せません。睡眠不足や空腹、疲労の蓄積は、子どもの感情のコントロールを難しくします。規則正しい生活は、心の安定にもつながります。
ただし、どんなに工夫しても癇癪がゼロになるわけではありません。それは子どもが成長の途上にいる証でもあります。完璧を目指すのではなく、「今日はこれでよかった」と自分を認める余裕も大切にしてください。
一人で抱え込まないでほしいこと
癇癪がひどいと、つい「自分の育て方が間違っているのでは」と孤独を感じてしまうかもしれません。けれども、多くの親が同じような悩みを抱えています。それは決して恥ずかしいことではなく、子育ての中でごく自然に起こる葛藤です。
もし日々の対応に疲れを感じているなら、信頼できる人に話を聞いてもらうだけでも、心は軽くなります。保健センターや子育て支援センター、スクールカウンセラーなど、専門的な視点で支えてくれる場所も活用していただきたいと思います。
また、癇癪の背景に発達の特性や感覚の敏感さが関わっている場合もあります。そうした可能性が気になるときは、早めに専門家に相談することで、子どもに合った関わり方が見えてくることもあります。
子育ては一人でするものではありません。周囲の力を借りながら、子どもと一緒に歩んでいくことが、何よりも大切です。
おわりに
癇癪がひどい子の心の中には、言葉にならない感情や困りごとが渦巻いています。それは決してわがままや甘えではなく、子どもなりの精いっぱいの表現です。
怒りの裏にある本当の理由に目を向け、少しずつ理解を深めていくことで、親子の関係にも変化が生まれていきます。すぐに答えが出るわけではありませんが、焦らず、子どものペースを尊重しながら、日々を重ねていってください。
あなたがこの記事を読んでくださったこと自体が、子どもを理解しようとする大切な一歩です。その姿勢を、どうか大切にしてください。

ここまで読んでくれてありがとう。
※この記事は、公認心理師・臨床心理士の「ふくろう」が、心理支援の現場経験をもとに監修しています。
一般的な心理学的知見に基づいた情報提供を目的としており、診断や治療に代わるものではありません。子どもの状態について心配なことがある場合は、医療機関や専門機関への相談をご検討ください。
