
こんにちは
臨床心理士・公認心理師のふくろうです。
「言葉が出ない」と気づいたときの心細さ
周りの子が少しずつ言葉を話し始めているのに、子どもからはまだ言葉が聞こえてこない。そんなとき、頭の中にはいろいろな思いが巡ります。このまま様子を見ていていいのだろうか。何か今できることがあるのではないか。それとも、もう専門家に相談すべきなのだろうか。
言葉が出ないとき親が最初に確認したいポイントは、実はいくつかあります。ただ、それは「チェックリスト」のように厳密に判定するためのものではなく、今の子どもの姿を少し丁寧に見つめ直すための手がかりのようなものです。
ここでは、臨床心理士として日々お話を伺うなかで感じている、親が最初に目を向けてみると役立つ可能性があるポイントについて、お伝えしていきます。
子どもが何を使ってコミュニケーションしているか
言葉が出ていなくても、子どもは必ず何らかの方法で周囲とやりとりをしています。まず見ていただきたいのは、その子が今、どんなふうに自分の気持ちや意思を表現しているかということです。
視線を使って「あれが欲しい」と伝えようとしているでしょうか。指さしをして、親に何かを知らせようとする様子があるでしょうか。泣いたり笑ったり、表情を豊かに使って応えているでしょうか。あるいは、手を引っ張って連れて行こうとする、欲しいものに手を伸ばすといった行動で意思を示しているかもしれません。
こうした「言葉以外のコミュニケーション」がしっかりと育っているかどうかは、とても大切な確認ポイントになる場合があります。なぜなら、言葉はコミュニケーションの一つの手段であり、その土台には「誰かに伝えたい」という気持ちがあると考えられているからです。
もし言葉以外の方法で活発にやりとりをしているのであれば、それは「伝える力」そのものは育っているということ。言葉という形になるのは、もう少し先なのかもしれません。
音や声への反応を観察してみる
次に見ていただきたいのは、子どもが音や声にどのように反応しているかです。
名前を呼んだときに振り向くでしょうか。好きな音楽が流れると体を揺らしたり、笑顔を見せたりするでしょうか。ドアの開く音や、外から聞こえる犬の鳴き声に反応するでしょうか。
聞こえているかどうかを確かめるというよりも、音という情報に対して子どもがどんなふうに関心を向けているかを見てみてください。聞こえていても、たくさんの音の中から特定の音を拾い上げることが苦手な子もいますし、音に敏感で圧倒されてしまう子もいます。
また、声のトーンや抑揚に反応しているかどうかも手がかりになることがあります。優しく話しかけると安心した表情を見せる、叱られる声のトーンに反応して動きを止める。そうした変化があれば、音声を通じた情報をしっかりと受け取っているということです。
ここで大切なのは、反応がないことを責めるのではなく、今どんなふうに音の世界と関わっているのかを知ることです。
日常の中での興味や関心の向き方
言葉の育ちには、子どもがどれだけ周囲のものごとに興味を持ち、関わろうとしているかも関係してくることがあります。
たとえば、好きなおもちゃや絵本があるでしょうか。特定の遊びに夢中になる時間があるでしょうか。散歩に出たときに、花や車や動物に目を向ける様子があるでしょうか。
こうした興味や関心は、やがて「これは何だろう」「あれが欲しい」という気持ちを育て、それが言葉を使う動機につながっていくことがあります。もし今、何かに強く惹かれている様子があるなら、それは言葉の芽が静かに育っている証拠かもしれません。
一方で、興味の幅が狭かったり、同じ行動を繰り返すことに安心を感じているように見える場合もあります。それ自体が問題というわけではありませんが、子どもが今どんな世界を感じ取っているのかを理解する手がかりになります。
人との関わりをどう感じているか
子どもが人とどのように関わっているかも、確認しておきたいポイントです。
親が遊びに誘ったとき、一緒に楽しもうとする様子があるでしょうか。笑いかけたら笑い返してくれるでしょうか。何かをしてもらったとき、嬉しそうな顔を見せるでしょうか。
言葉はもともと、誰かとつながるための道具だと考えられています。人と一緒にいることが楽しい、誰かと気持ちを共有したいという感覚があると、言葉を使う意味が自然と生まれてくることがあります。
逆に、一人でいることを好む時間が多かったり、親が関わろうとしてもあまり反応がなかったりする場合には、関わり方そのものを少し工夫してみることが助けになることもあります。無理に引き込もうとするのではなく、子どもが安心できる距離感を探りながら、ゆっくりと関係を育てていく。そんな姿勢が、言葉を育む土壌になります。
体の使い方や動きにも目を向けてみる
見落とされがちですが、体の動きや使い方も、言葉の発達と無関係ではないとされています。
口や舌を使って食べ物を噛んだり飲み込んだりすることは、言葉を発するために必要な筋肉の動きと深く関わっていると考えられています。よだれが多く出ていたり、食べ物をうまく噛めていない様子があったりする場合には、口の周りの筋肉の発達がゆっくりなのかもしれません。
また、手先を使った遊びや全身を動かす遊びも、脳の発達全体を支えることがあるとされています。言葉だけが独立して育つわけではなく、体全体の育ちと連動していることが多いのです。
こうした視点を持つことで、言葉を育てるために何ができるかが少し具体的に見えてくることもあります。
不安が大きいときには、記録を残してみる
確認したいポイントを見ていくなかで、やはり気になることが多いと感じたときには、少し記録を残してみるのも一つの方法です。
いつ、どんな場面で、どんな様子が見られたか。何に反応して、何には反応しなかったか。そうしたメモを数日から数週間続けてみると、見えなかったパターンが浮かび上がってくることがあります。
それは専門家に相談するときにも役立つ場合がありますし、何より、漠然とした不安が少し整理されて、落ち着いて子どもを見つめられるようになることもあります。
ただし、記録をとることが負担になったり、子どもの粗探しのようになってしまうのであれば、無理にする必要はありません。あくまで、自分自身が少し安心するための手段として使ってください。
確認することは、診断することではない
ここまでいくつかのポイントをお伝えしてきましたが、これらは診断基準でも判定材料でもありません。あくまで、今の子どもの姿を少し角度を変えて見つめ直すための視点です。
子どもの育ちには、本当に多様な道筋があります。どこか一つに当てはまらないからといって、それが問題を意味するわけではありません。逆に、すべてが順調に見えても、親として気になることがあるなら、その感覚も大切にしてほしいと思います。
何より大切なのは、こうした確認を通じて、子どもとの関わり方を少し工夫してみたり、安心材料を見つけたり、あるいは専門家に相談するきっかけをつかむことです。

ここまで読んでくれてありがとう。
一人で抱え込まず、必要なときには周囲の力を借りる。それもまた、親としてできる大切な選択の一つです。今のあなたの不安や迷いも、子どもを大切に思うからこそ生まれているものです。その気持ちを大事にしながら、少しずつ前に進んでいけたらと思います。
※この記事は、公認心理師・臨床心理士の「ふくろう」が、心理支援の現場経験をもとに執筆しています。
一般的な心理学的知見に基づいた情報提供を目的としており、特定の診断や治療を行うものではありません。子どもの状態や状況には個人差があります。心配なことがある場合は、医療機関や専門機関への相談をご検討ください。
