はじめに
子どもの癇癪が止まらないとき、「何をしても泣き止まない」「どう対応すればいいのかわからない」という無力感に襲われることがあるかもしれません。一生懸命に声をかけても、抱きしめても、何も届かないように感じるとき、自分の関わり方が間違っているのではないかと不安になることもあるでしょう。
癇癪が激しいとき、多くの親は「どうやって止めるか」に意識が向きがちです。しかし、心理の視点から見ると、癇癪そのものを無理に止めようとするよりも、なぜ癇癪が起きているのか、何が背景にあるのかを理解することが、実は遠回りのようで最も確かな道になります。
この記事では、癇癪が止まらないと感じたときに、親が最初に見直すべき3つのポイントをお伝えします。それは特別な技術や知識ではなく、日々の関わりの中で少し意識を向けるだけで気づけることです。

こんにちは
公認心理師・臨床心理士のふくろうです。
癇癪を「止める」のではなく「理解する」という視点
まず前提として考えておきたいのは、癇癪を無理に止めようとすることの難しさです。
癇癪は、子どもの中で溢れ出した感情の表現です。それを外側から力ずくで抑え込もうとしても、根本的な解決にはなりません。むしろ、感情を否定されたと感じることで、子どもの不安や混乱が増してしまうこともあります。
大切なのは、「なぜ今、この子はこんなに苦しんでいるのだろう」という視点を持つことです。癇癪が止まらないということは、子どもの中に何か大きな困りごとがあり、それがうまく処理できていないというサインかもしれません。
ですから、これからお伝えする3つのポイントは、「癇癪を消すための方法」ではなく、「癇癪の背景にある困りごとに気づくための視点」です。この視点を持つことで、子どもへの関わり方が少しずつ変わり、結果として癇癪が落ち着いていくことがあります。

難しそうですね。でも知りたいです。
見直すべきこと1:子どもの生活リズムと身体の状態
癇癪が止まらないとき、最初に見直していただきたいのが、子どもの生活リズムと身体の状態です。
子どもの感情のコントロールは、実は身体の状態と深く結びついています。十分な睡眠がとれているか、食事のタイミングや内容は適切か、疲れが溜まっていないか――こうした身体的な要因が、感情の安定に大きく影響します。
睡眠不足の子どもは、ちょっとしたことでイライラしやすくなります。大人でも寝不足のときは感情が不安定になりますが、子どもはそれ以上に睡眠の影響を受けやすいのです。夜更かしが続いていないか、眠りの質は良いか、昼寝の時間は適切かなど、睡眠のパターンを一度振り返ってみてください。
また、空腹や満腹も感情に影響します。お腹が空きすぎていると集中力が切れ、些細なことで癇癪を起こしやすくなります。逆に、食べ過ぎて身体が重たいときも、不快感から機嫌が悪くなることがあります。食事の時間が不規則になっていないか、間食のタイミングは適切かなども見直すポイントです。
さらに、身体を十分に動かせているかも重要です。子どもはエネルギーに満ちていて、身体を動かすことで心のバランスを保っています。外遊びの時間が減っていたり、室内で静かに過ごすことが多くなっていたりすると、エネルギーの発散場所がなくなり、それが癇癪という形で表れることがあります。
体調の変化にも注意が必要です。風邪の引き始め、便秘、成長痛など、子どもは自分の身体の不調をうまく言葉で説明できないことがあります。そうした不快感が癇癪の引き金になっていることもあるのです。
生活リズムを見直すことは、決して「完璧な生活」を目指すことではありません。忙しい毎日の中で、できる範囲で整えていく。それだけでも、子どもの心と身体の安定につながっていきます。
見直すべきこと2:親子の関わりの質と量
次に見直していただきたいのが、親子の関わりの質と量です。
ここで大切なのは、「どれだけ一緒にいるか」だけでなく、「どのように向き合っているか」という質の部分です。たとえ短い時間でも、子どもに意識を向けて、丁寧に関わる時間があるかどうかが重要になります。
忙しい日々の中で、気づかないうちに子どもと「ながら」で接していることはないでしょうか。スマートフォンを見ながら返事をする、家事をしながら話を聞く、テレビをつけたまま遊ぶ――こうした時間が増えると、子どもは「自分を見てもらえていない」と無意識に感じることがあります。
その寂しさや不安が蓄積すると、癇癪という形で表れることがあります。子どもは言葉で「もっと構ってほしい」と言えないことが多いため、行動で訴えるのです。
一日のうち、ほんの10分でも構いません。スマートフォンを置いて、子どもと向き合う時間を意識的に持ってみてください。一緒に絵本を読む、子どもの話をじっくり聞く、抱きしめる――そんな何気ない時間が、安心感を育てます。
また、関わり方の「トーン」も見直してみてください。最近、子どもに対して注意や指示ばかりになっていないでしょうか。「早くして」「ダメでしょ」「ちゃんとして」といった言葉が増えていると、子どもは自分が否定されているように感じることがあります。
もちろん、必要な注意や指導はあります。ただ、それと同じくらい、認める言葉、褒める言葉、共感する言葉も大切です。「よく頑張ったね」「それ、楽しそうだね」「そう感じたんだね」――こうした肯定的な言葉かけが、子どもの心を満たしていきます。
さらに、親自身の状態も振り返ってみてください。あなた自身が疲れていたり、不安を抱えていたりすると、それが無意識に子どもに伝わります。親が余裕を失っていると、子どもも不安定になりやすいのです。
自分を責める必要はありません。ただ、「最近、私も疲れているな」と気づくことが、第一歩です。そして、少しでも自分をいたわる時間を持つこと。それが結果的に、子どもへの関わりの質を高めることにもつながります。
見直すべきこと3:子どもを取り巻く環境とストレス要因
最後に見直していただきたいのが、子どもを取り巻く環境とストレス要因です。
子どもは大人が思っている以上に、環境の変化や日常の小さなストレスに敏感です。引っ越し、入園、進級、弟や妹の誕生、家族の不調――こうした変化は、子どもの心に大きな影響を与えます。
特に、大人から見れば「良い変化」に思えることでも、子どもにとってはストレスになることがあります。広い家に引っ越した、新しい保育園に通い始めた、習い事を始めた――これらはポジティブな出来事のように見えますが、子どもにとっては慣れ親しんだ環境を失い、新しい場所に適応しなければならないというプレッシャーでもあります。
また、日常的に通っている保育園や幼稚園、学校での様子も重要です。友達とうまく遊べているか、先生との関係は良好か、集団生活の中で無理をしていないか――こうしたことを、さりげなく確認してみてください。
外では頑張っている分、家で感情を爆発させることはよくあります。癇癪が止まらないのは、外でのストレスを安全な場所で発散しているからかもしれません。その場合、癇癪を叱るのではなく、「外で頑張ったね」と労いの言葉をかけることが大切です。
家庭内の環境も見直してみましょう。テレビやタブレットの音が常に流れていて落ち着かない、部屋が散らかっていて集中できない、兄弟との競争や比較がある――こうした環境的な要因が、子どもの心を疲れさせていることもあります。
静かな時間を作る、片付けをして視覚的な刺激を減らす、一人ひとりと個別に関わる時間を持つ――小さな工夫でも、子どもの安心感は変わります。
また、最近大きな変化がなかったかを振り返ることも有効です。コロナ禍での生活の変化、家族の転職、祖父母との別れ――大人が気づかないうちに、子どもは多くのことを感じ取り、処理しきれずにいることがあります。
環境を見直すことは、すべてを完璧にすることではありません。子どもにとって何がストレスになっているのかに気づき、できる範囲で調整していく。それだけでも、癇癪の頻度や強度が変わることがあります。

ここまで理解しただけで十分です。
3つのポイントを統合して考える
ここまで、生活リズム、親子の関わり、環境という3つの視点をお伝えしてきました。これらは別々のものではなく、互いに影響し合っています。
たとえば、睡眠不足で疲れている子どもは、保育園でのストレスにも弱くなります。親が忙しくて関わりの時間が減ると、子どもは不安から生活リズムも崩れやすくなります。環境の変化があると、それだけで睡眠の質が下がることもあります。
ですから、どれか一つを見直すだけでなく、全体を俯瞰して考えることが大切です。「最近、睡眠時間が短くて、私も忙しくて、引っ越しもあったから、この子は本当に大変だったんだな」と気づくことができれば、癇癪への見方も変わってきます。
そして、すべてを一度に完璧にする必要はありません。まず一つ、今日からできることを始めてみてください。早めに寝る時間を作る、10分だけスマートフォンを置いて向き合う、部屋の一角だけ片付けてみる――小さな一歩が、大きな変化につながることがあります。
変化には時間がかかることを知っておく
ここで大切なお伝えしたいのは、これらの見直しをしたからといって、すぐに癇癪がなくなるわけではないということです。
子どもの心と身体のリズムが整い、安心感が育ち、感情のコントロールが身についていくには、時間がかかります。数日で変わることもあれば、数週間、数ヶ月かかることもあります。
その間、癇癪が続くこともありますし、良くなったと思ったらまた激しくなることもあるでしょう。それは決して後退ではなく、成長のプロセスの一部です。
焦らず、子どものペースを尊重しながら、見守り続けることが何よりも大切です。そして、少しでも変化があったら、それを認めてあげてください。「昨日より少し早く落ち着いたね」「今日は自分で深呼吸できたね」――そんな小さな成長を見つけることが、親子双方の励みになります。

今日からやってみます。
一人で抱え込まないために
最後に、もしこれらの見直しをしても癇癪が止まらず、日常生活に大きな支障が出ている場合は、専門家の力を借りることも考えてみてください。
保健センター、子育て支援センター、小児科、児童相談所など、相談できる場所はいくつもあります。癇癪の背景に、発達特性や感覚の敏感さ、何らかの困難が隠れていることもあり、専門家の視点で見ることで、より適切な支援が見つかることもあります。
相談することは、決して弱さではありません。子どものために最善を尽くそうとする、前向きな選択です。一人で悩み続けるよりも、誰かと一緒に考えることで、新しい道が開けることがあります。
また、パートナーや家族と協力することも大切です。一人ですべてを背負う必要はありません。「今日は疲れたから、代わってほしい」と素直に伝えることも、健全な子育ての一部です。
おわりに
癇癪が止まらないとき、親が最初に見直すべき3つのこと――生活リズム、親子の関わり、環境――をお伝えしてきました。
これらは特別なことではなく、日々の暮らしの中にあるものばかりです。けれども、忙しい毎日の中で見失いがちでもあります。一度立ち止まって、子どもの生活全体を見渡してみることが、癇癪の理解への第一歩になります。
癇癪は、子どもからの大切なメッセージです。「困っている」「助けてほしい」「わかってほしい」――そんな声に耳を傾け、できることから少しずつ調整していく。その積み重ねが、子どもの心の安定につながっていきます。
完璧を目指す必要はありません。今日できることを、できる範囲で。その姿勢を大切にしながら、子どもと一緒に歩んでいってください。

ここまで読んでくれてありがとう。
※この記事は、公認心理師・臨床心理士の「ふくろう」が、心理支援の現場経験をもとに監修しています。
一般的な心理学的知見に基づいた情報提供を目的としており、診断や治療に代わるものではありません。子どもの状態について心配なことがある場合は、医療機関や専門機関への相談をご検討ください。

